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駐日米国シーファー大使CPAS特別講演会

2007/8/13 月曜日

大リーグ野球から安全保障まで

  2007年6月28日(土)午後、駐日米国シーファー大使が駒場のアメリカ太平洋地域研究センターを公式訪問した。アメリカ太平洋地域研究センターが主催した特別講演会「駐日米国大使トマス・J・シーファー大使と語ろう――政治・文化・日米関係」で講演を行なうとともに、東京大学の学生と親しく語り合うのが大使訪問の第一の目的であった。歴史を振り返れば、駐日米国大使が駒場のキャンパスを公式訪問するのは今回がはじめてであり、講演会場となった数理科学研究科棟大講義室には、学部学生、院生が殺到することとなった。会場に入りきれない学生の求めに応じて、会場を映し出す液晶大画面を別室に急遽設けたほどである。この画面を通して大使の講演に耳を傾けた者を含めれば、300名近い学生が大使の歴史的訪問を歓迎したことになる。「反米」とも総称しうる昨今の世情にもかかわらず大使の講演にこれだけ大勢の学生が集まった点に、日本における米国のプレゼンスの大きさが垣間見られた。

講演するシーファー大使

講演するシーファー大使

  まず大使はアメリカ太平洋地域研究センター会議室で小島憲道総合文化研究科長、西中村浩副研究科長に挨拶したあと、センター教授たち――木畑洋一、能登路雅子、古矢旬、遠藤泰生――と懇談し、日本におけるアメリカ研究の現状などの説明に耳を傾けた。その後、大講義室に車で移動、講演を始めた。政治経済のグローバリゼーションを先導する米国とそのグローバリゼーションの進展に懐疑的な人々との間に生まれがちな緊張関係、「9.11」の背景の一つとされる「原理主義」の動向、あるいは東アジア地域の安全保障などについて講演を行なったのち、いよいよ、楽しみにしていた学生との質疑応答に入った。タウンミーティング方式と呼ばれる形を採用した今回の質疑応答では、大使自らが質問者を指名し、米国外交の一線に立つ者の責任とユーモアを織り交ぜつつ、一つ一つの質問に真摯に答えていった。

シーファー大使と遠藤

シーファー大使と遠藤

  ビジネス界の出身であるだけに企業活動のグローバリゼーションを語る言葉はとくに滑らかであった。また、2006年に米国で行なわれたWBC(World Baseball Classic)における日本の優勝に話が及んだ時には、かつてテキサス・レンジャーズの共同出資者であった野球好きの顔を取り戻し、笑顔でお祝いの言葉を述べた。しかし、予想されたことながら、学生の質問は大使の意見に賛意を表明するものばかりではなく、米国の外交姿勢を批判するものも少なくなかった。例えば、東アジアにおける日米関係の将来に必ずしも賛意を示してはいない中国、北朝鮮に対し、今後米国はどのような外交を展開する心積もりであるのか、イスラム原理主義を批判的に捉える米国民自身が、自国内のキリスト教原理主義の伸張をいかに捉えているのかといった質問が、次々となされたのである。これに対する大使の応答は、一面、外交官としての模範解答に近いものが多かったが、逆にそれ故にこそ、自国の利益を追求するパブリックディプロマシーの現場を学生に学ばせる格好の機会を提供した。

熱気に溢れる会場

熱気に溢れる会場

  大使と学生との対話は、教育・研究の場における率直な意見の交換を重んじる総合文化研究科・教養学部に相応しい快事であった。予定を大幅に延長し誠意を持って1時間近くも学生と対話を続けたシーファー大使に重ねて御礼を申し上げたい。と同時に、当日の同時通訳機器の操作等でご協力いただいた教養学部附属教養教育開発機構、企画運営全般でお世話になった総務課、また、企画立案で協力いただいた東京アメリカンセンターに記して謝意を表したい。